信心が足りぬと見えて秋に風邪

◎川柳「信心が 足りぬと見えて 秋に風邪」






それぞれの方に、それぞれタクシーの思い出があると思う。

向田邦子さんのエッセーなんて面白かった。
夕焼け評論家の運転手さんは、今、どうしているのだろう?

本記事では、私個人のタクシーの思い出として、
古い記憶を引っ張り出してみようと思う。

そう、二十歳か二十一歳の頃、大学生だった。

学生がタクシーを使うなんて生意気だと思われる方も多いだろう。
でもご勘弁願いたい。
その日、私は39度を超える高熱を発してダウンしていたのだ。
頭はクラクラするし、悪寒もひどい。
そんな中、どうしても出掛けねばならぬ用事があったのです。

部屋からヨタヨタと大通りに出て、タクシーを拾い、
四条河原町まで」と告げました(当時は京都在住)。

あの時の運転手さんの一言は、今でも忘れられない。

「それ、どこですか?」

高熱でボンヤリしている頭が彼の言葉を理解するのに、
しばしの時間がかかった。

聞くところによると、
九州から出てきたばかりで、京都の地理はまだサッパリ、とか。

最大の繁華街である四条河原町を知らないタクシーというのは、
失礼ながら、ほぼ役に立たない段階である。
町の規模が違いすぎるので比較対象にはならないかもしれないが、
東京で新宿を知らないのと同じようなものかな。

後部座席で少しでも身体を休めようと思っていたのが、
道案内&観光ガイドをする羽目になってしまいました。
よりによってこんな時にとは思ったけど、
感じのよい運転手さんでもあったしね。

「これ下鴨神社賀茂川
「ここ大学病院」
「市役所」
「修学旅行生が多い旅館」
「あのビルに、オカマバー」

四条河原町に着き、
「やれやれ。なんであれでタクシー代を払らわにゃならんのだ?」と、
ボヤキつつ大阪梅田行きの特急に乗り込みました。

しばらく内心ブツブツと文句を言っていたのですが、
ふと気付いたことがあります。

身体が楽になっている!

そうなのです。
悪寒は消えているし、頭も心なしかスッキリしてる。

実際、快調とは言えないまでも、何の問題もなく用事を済ませ、
帰宅した夕方には熱も37度台になってました。

病は気からと言うのは本当なんですね。
タクシーの中で案内をしている間は身体の不調も忘れていました。
それが良かったようです。

頼りないタクシーというのは、風邪薬よりも効くらしい。
唯一の心配は、あの運転手さんに風邪を移したかもという点なのだが、
もしそうだったとしたら「案内料」だと思って頂けたのかな?