クソ婆に心の隅を乗っ取られ

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◎短歌もどき「クソ婆に 心の隅を 乗っ取られ
                  生きよ生きよと ののしらる夜」




開高健著「もっと遠く!」は、大好きな本の一つです。

この北米紀行の最後が、ニューオリンズでジャズを聴く場面。
彼は勧められ、キッド・トーマスとスウィート・エマを聴きに行ってます。

洋楽好きの私ですがジャズへの関心は薄いので、
このお二人についてはずっと知らぬままでしたが、
Youtubeで彼らの演奏する姿を見ることができました。

キッド・トーマスについてはまた別の機会があれば書くことにして、
本日はスウィート・エマ(Sweet Emma Barrett)について。


こいう音楽を聴き慣れない方には、少々つらいものかも。
私も最初は、違和感を強く覚えてしまいました。

でも何度か聴いている内に強く心を打たれ、脳裏にこびり付いてしまった。
とんでもなく凄まじいものを感じるのである。

言葉は悪いけど、見たままで言うと「クソ婆」である。
でも魅力的だ。強い。

あたしゃ、この女性をどう理解したらいいんだ?
どんな人生を歩んだら、この雰囲気を出せるんだ?

日本にも古今、魅力的な高齢女性のシンガーはたくさんいる。
彼女たちに共通するのは「情」だろうと思う。

でもこのエマ婆さんは、少々「非情」に見える。
何だかこっちを疑っているかのような目つきを時々されるのだ。
「お客様は神様です」とは正反対の目つき。

目をそむけたかったら、そむけるがいい。
生きるってのは、生き続けるってのは、こういう事だ。
で、「お前はどうなんだ?」と見る者に迫って来るものがある。
「私のように生きられるものなら、生きてみろ」って。

ただ、そんな厳しい表情がゆるむ合間も何度かある。
これが実にいい顔なのだ。かわいい。
「照れ」とか、「慈しみ」とか、「人間同士の共感」とか、
そんなものをるつぼに入れてかき混ぜたような顔。
脚の鈴と相まって、なんとも可愛い。


この後、彼女は脳卒中を患い、左半身がマヒしてしまったらしい。
それでも片手で、車いす姿でステージに出続けた。
開高健が見たのは片手演奏の彼女である。

さぞかし壮絶な姿だったのだろう。


  それでいて従容とし、淡々としていて、妄せず、執していない。


ジャズ文化は奥深い。そして、人生も。