大魚を逸する


野球には、野球の神様がいる。
甲子園にいる神様は、時にとんでもなく気まぐれになり、
信じられないようなイタズラをする事がある。

1979年8月16日、この神様は球史に残るイタズラをした。

で、同じ神様だと思うのだけど、
当時9歳だった軒太郎少年にも、ちょっとしたイタズラをされたのです。



小学生の頃の夏休みというと、
私の場合、思い出すのは甲子園の高校野球なのです。
朝から一日中テレビにかじり付いていたような気がするなあ。

その日もそうでした。
とてもよく憶えているんです、あの日の事は。

朝からずっとテレビを見ていて、
第三試合に準優勝する大人気の徳島・池田高校が出たんですね。
伝統ある実力校の中京との対戦。
これがなかなかの良い試合で、興奮しつつ観戦し、
終わったのが三時半過ぎた頃でした。

そこで思ったんです。柄にもなく。
さすがに一日中ずっとテレビで疲れてきたし、外へ遊びに行こう、と。
神様のイタズラだったのだろうなあ。

そうして、遊びに出かけて、帰って夕食も済ませて、
高校野球はずっと忘れたままでした。

寝る前、いつもの様に親と一緒に夜のニュースを見ました。
あの時の愕然とした思いは忘れられません。
そう、私がその日、唯一見逃した簑島対星稜の延長18回の名勝負について、
番組自体が異様に興奮して報じていたように憶えています。

「大魚を逸する」と言うんですかね。
とんでもないものを見逃してしまって、
世間の大興奮から自分だけがカヤの外にいるような感覚。


ただ、あの頃は、まだ幼かった。
同じような名試合に、またいつか将来巡り合えるはずだ、
そう心の底で思っていたような気がします。

が、しかし・・・

以来、野球に限らず、
大きな魚はすべて逃がしてしまって来ている気がするな。


この試合については、何度も何度も、振り返る番組が作られていますよね。
それらを目にしたり、ラジオで耳にするたびに、残念さが募ります。
あの時に見ていたら、って。

Wikipediaで、この試合について調べていると、
なんと来たる九月に甲子園球場で当時のメンバーが記念試合をするんだとか。

いいよなあ! 素敵だよなあ!!

と、思いつつ、まだ素直に歓迎できぬ自分がいます。
あまりにも大きすぎる魚だっただけに。