人生の初の記憶は揺れる椅子

◎川柳「人生の 初の記憶は 揺れる椅子」



半年ほど前のこと。
親戚の小学低学年の子と一緒にお出かけをした。

道中、べちゃべちゃと下らぬお喋りをしつつだったのが、
目的地に着いた途端、彼が急に黙り込んでしまって・・

「どないした?」
「・・・」
「気分でも悪いんか?」
「・・・」

普段見た事のない、妙な表情をしております。

独り者の私は、子供の扱いに慣れていません。
体調不良とでもなったら、おろおろと小パニックです。
どーしよ、どーしよ、近くに医者はない。
でも顔色は普通だし、呼吸も別に・・
などと考えていると、ようやく彼の口が開いた。

「ここ、来たことある」

勝手に小パニックを起こしていた自分への照れもあったけど、
大人げなく腹を立ててしまいました。
「何でやねん!」と。
行った事が無いと言うから連れてきたのに、
着いた途端に「来たことある」ってのは、ムカつきまっせえ。

ま、憤りを顔に出さぬよう努力し、
「いつ? 誰と?」などと問いただしたのですが、
ぐちゃぐちゃと要領を得ぬ返事ばかりでよく分かりません。

帰宅後に問い合わせてみると、確証がとれました。
しかし、結構前の事で、幼稚園の早い頃ではないか。
「へえ、憶えてるもんかねえ」とのこと。


ふむ。
後に彼がもっと大きくなって、どう回想するか知らないけど、
もしかしたら私は、彼の「人生の初の記憶」を掘り起こしたのかも。
とすると、黙り込んだ反応は、とてもよく分かる。

私自身、彼くらいの年齢で、
過去の埋もれていた部分を急に思い出した際、
妙にヘンな気がした(ような気がする)から。

私の場合、小さい頃に引っ越しが何度かあったので、
人生の最初の記憶の時期ははっきりとしている。
4歳くらいでロッキングチェアと庭を、ぼんやりと。

人生の初の記憶ってのは、それぞれにとって大事なものだが、
またそれを初めて意識して思い出した日ってのも、
人生の重要な一日であるような気がします。