岡西政典「深海生物テヅルモヅルの謎を追え!」
今年の春頃まで、
集中的に読んでいた「フィールドの生物学」の一冊。
5月末に出版されたもの。
ちょっとタイトルに偽りあり、かな?
特に「謎を追う」は前面に出てないし、
「進化を探る」は最後の最後の付け足しですから。
内容は、系統分類学に出会い、
テヅルモヅルなどの分類のために世界を飛び回る青春記。
「分類学とは」が、とてもよく分かります。
で、基本的には、スゴイ面白いです。
段落無しで延々と文章が連なるなど、
視覚的に読みにくい部分があったりはしますが、
それを補って余りある熱さがあって、
一気に読み終えてしまいました。
結局のところ、
過去の文献を徹底的に集めて読む、
実物をじっくり観察する、実験する、
の二つが肝心ってことですね。
下村博士という彼の先輩の言葉、
「頭の中の霧が晴れたかのように種同定を行えるようになった」が、
本書中に何度か出て来ます。
最初は何も分からない中で、
苦しみながら懸命に文献を読み、標本観察をしていると、
いつの日か「霧が晴れたかのよう」という感覚が得られる。
私事ですが・・・
私は山道や道端で見つけた植物の名前を、
出来る限り分かるようになりたいと思ってます。
イネ科とか、カヤツリグサ科とか、無視してるのもあるけど。
図鑑を見る程度で文献読みはしてないけど、
歩く途中に意識的に植物を見ていると、
最初は分からなかった事がだんだん見えてくるようになりました。
本書の著者ほどの熱心さや努力はしてないので、
「霧が晴れてくる」程のスピード感は無いけど、
徐々に、徐々に、見えてくるものがあります。
生物学だけに限りません。
例えば語学などでも、
始めは苦しいだけですけど、
ある時点で「分かってきた!」との感覚が得られます。
話題には辟易しているところですが、
これもきっと頑張れば・・・
「鑑定眼が養われてくると、
今後は俄然、フィールドが楽しくなる」
と、著者はおっしゃいます。
ホント、その通り。
そして彼は、海外の博物館での標本調査の旅に出ます。
本書の特徴は、この部分でしょう。
深海生物だから、実際のフィールドに行ける機会は限定的で、
博物館の方が主なフィールドになるというのは、
私には全く初めての知見で面白かったです。
そこには、過去の文献を遺した著名な研究者が、
実際に観察をした標本が残っている。
過去の観察の跡などを確かめながら、
時代を越えた研究がなされるという感覚には、
大きなロマンを感じました。
行く先々で、著者は親切で人間味のある研究者と出合います。
その人柄が、過去の研究者と重なるような気もしました。
正直、私のこれまでの人生の中で、
テヅルモヅルやらクモヒトデやらとの接点はなかったし、
今後もまず無いと思います。
そういう人が世の中のほとんどでしょう。
でも、「観察をする」という点では、
多くの人と接点を持つのが本書です。
非常に刺激を受けたし、勉強にもなりました。
やっぱりこのシリーズ、侮れません。
サスガであります。