宇江敏勝「森とわたしの歳月:熊野に生きて七十年」





個人的な感想に過ぎないが、
日本の山を総じて見るに、
「なぜ、こんなに人工林だらけにしちゃったのか」
と、ため息が出ます。

もちろん、理由は知ってます。
分かってながら、ため息が出るのです。


さて、本書は、著者の人生を辿りながら、
熊野地方の森林とそれに係る人間や社会の推移が、
現場からの目線で描かれております。
宇江敏勝の独壇場と言えるでしょう。

昭和初期くらいまでの
腕のある炭焼きが原木を求めて山を渡り歩いたころ。
戦時中となり炭も質より量が時に強制的に求められ
山が荒廃してしまった時代。
戦後なお山は燃料生産の場として求められる一方、
荒廃した山の復興が始まった時代。
昭和30年代になり薪炭の需要が減り、
天然林の木々はパルプ用材として使われる中、
拡大造林により人工林化が進んでいく。
そして、現在の山と、山村の様子。

当時、現場にいた人たちが、
何を考え感じていたのか、
とてもよくわかる一冊です。

単に人工林があるわけではない。
そこに携わった人間の歴史とともに、
杉や檜は育ち続けている。

それを踏まえたうえで、
やはり私はため息をつくのではありますが。