その土地に詳しい人に訊く



ちょっと前のことになるが、
よく使う山道で、
経験豊富そうな年配登山者とすれ違った。

地図には載ってない、
メインルートから外れた山道である。

その際、彼は私に、
この先の山道の状況を訊いて来られた。

「荒れた急傾斜がありますよ。
登りは問題ないが、下りは要注意」と答えると、

さらに細かく質問を重ねた後で、
メインルートに戻って行かれました。

大きなバックパックを背負っておられたし、
無理はするまいと思われたようだ。
近道にもならないし。

装備や歩き方から察するに、
私などより、もっと山に熟練した方だったと思う。

なのに、私の方が、この土地には詳しいと思ったら、
素直に耳を傾け、情報を集めようとする。

その態度に、見習わなきゃと感じた次第です。


先日の、多数の高校生らが犠牲になった雪崩事故。

遊びに行って命を落としたのならある程度仕方ないが、
部活の講習会だった。

自然が好きな若い人たちの前途が閉ざされた事を思うと、
あまりにも痛ましすぎる。


冬山・春山には行かないし、
雪などほとんど目にしない人間だから、
偉そうな事を書くべきではないのだろう。

しかし、ラッセル訓練への変更は当日朝に決まり、
すぐに実行されたとのニュースが本当なら、
疑問が湧いてきます。

訊いたのか?
土地に詳しい人を捜して、
訓練が妥当かどうか訊いたのか?

スキー場の近くなのだから、
その山を何年も何十年も見続けてきた人がいるだろう。
どこが危険で、どこが安全か知ってる人がいるだろう。

山というのは、天候などによって、表情を変える。

引率教員はベテランだったとされるが、
どんな経験豊富でも、
今回のルートを知り尽くしてた訳ではあるまい。

「知ってる」と思っていたのなら、
それは経験豊富なのではなく、
ただの慢心でしかない。

知れば知るほど、
謙虚に他人の体験に基づいた言葉に耳を傾けるようになる、
それが真のベテランであるはずだ。


私には、百回以上、繰り返し歩いている山道がある。

それでも、

「強めの雨が降った後は、
斜面のこの部分を水が流れるのか!」とか、

「強風の際には、ここに風が集まるから、
樹形がちょっと違う」とか、

まだまだ新しい発見がある。

行けば行くほど、
自分の未熟さを知るのが私にとっての山である。


結局のところ、
「山のことをオレは分かってる」という感覚が、
一番危険なのではないか。

高校教師なんていい加減だから、
分かった振りをして数学や英語などを教えているのだろう。

教室内でなら、そんなハッタリで十分である。

しかし、危険に満ちた山という舞台で、
ハッタリを続けてはならない。

教師も生徒と一緒になって、
山や、その土地に詳しい人から常に学ぶという態度こそが、
安全への優先事項なのだと、私は思う。


誰を非難しても、帰って来ない人は帰って来ない。

重大な教訓として語り継ぐしか出来ないのだが、
この前のヘリ墜落事故と共に、
あまりにも重すぎて気の滅入るニュースでした。

もう二度と起って欲しくない。