ナンバー2を叩くということ(河口俊彦著「大山康晴の晩節」)

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園橋は、将棋にはほとんど興味がないのでござります。
昭和の大名人・大山康晴は名を知っている程度。
それでもとても楽しめる本でありました。

興味を引かれる部分はいろいろありましたが、
特に彼が長くトップに君臨するために、
ナンバー2を徹底的に叩いたという辺りは最高に面白い。

  (前略)二番手に付けた者を徹底的に叩いた。
  盤上で勝つだけでなく、盤外でも屈服させた。
  日常のありとあらゆるきっかけを、
  コンプレックスを植えつけるために利用した。
  大山に盤上、盤外で苦しめられ馬鹿にされて
  口惜し涙にくれた棋士がどれほどいたことか。

  ことさら理事としての二上を軽んじるようなそぶりを見せ続けた。

  大山は加藤をこてんぱんにやっつけた。
  さんざんいたぶって負かしたせいかどうかはさておき、
  結果から見れば、早々にナンバー2の芽をつんだことになる。
  この二人の対戦は、以後三十年あまりもつづくのだが、
  ほとんど大山が加藤をカモ筋にしていた。  

  単に負かしただけでなく、
  ことさら見下すような態度と指し方をして、
  後々までコンプレックスを植えつけた。


こういったことを悪どくやるか、
スマートにやるかとの違いはあると思うけれど、
勝負の世界のトップに長く居続ける人間には
こんな面があるのだろうなと思います。

私の興味関心は、競馬であり、騎手の武豊であります。

彼がダントツのトップに君臨して長期間になっているけど、
その責任を負うべき人がいるとしたら四位洋文だと思う。
技術とか多くの面で武豊に勝るとも劣らぬ器を持ちながら、
対抗するのをかなり早い段階から諦めしまっている。
ナンバー1を狙えるナンバー2であるべき彼が、
「とても敵わない」との態度を取ってしまったから、
豊さんは楽々とトップを維持することが出来たのだと思う。
藤田伸二にしても同様だ。

四位には、もともと勝負師としては淡白なところがあって、
競馬職人的な喜びの世界で満足するタイプだったことも、
豊さんにとっては良かったのだろう。

四位洋文がそうなっていく過程で、
何か武豊の側から働きかけがあったのかどうか、
分かったら楽しいだろうなあ。

また、武豊は若手騎手を自宅に呼んで振舞うこともあるそうだ。
元タレントの奥さんが出迎えて、
家にあるかなり高価で最新式のトレーニング用具の数々を見せる。
それを見た若手たちは、
「豊さんって、ここまでやってるんだ! スゴイ!!」
と、思うのだそうだ。

これは武豊の若手騎手に対するサービスであると同時に、
「僕に追いつけると思うかい?」
という心理作戦なのではないかとも思える。
(悪意とは思ってませんよ)

あの岡部さんも、いろいろとやってたんじゃないかなあ。
彼の本を読んだ他の騎手たちは、考えてしまう場面が多かったろうし。

さて、最近の騎手界の話題は新人・三浦皇成である。
http://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2008/07/31/01.html

さあ彼は、周囲との心理戦に勝てるような性格なんでしょうか?

勝負の世界ってのは、客観的に観察すると楽しいね。