松本清張「無宿人別帳」

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まだ読んでいる途中なんですけどね。

短編集なので、あっちゃこっちゃを読み散らかしておるのです。
いやあ、現代社会そのままを読んでいるような気がして、興味深い。

蟹工船」が売れているそうですけど、
こういう江戸時代の無宿者についての本も、
小説であれ、研究書であれ、もっと読まれてもいいんじゃないかなあ。

置かれている立場が全然違うってことは確かです。
でもネットカフェ難民などと呼ばれている方々などと
共通する部分がかなりあるのも確かだと思います。



社会的にとても弱い立場に追いやられてしまって、
自棄になって罪を犯してしまう人、
無理やり罪を被らされてしまう人、
罪も無く人狩りに遭い佐渡金山等の劣悪な環境で酷使され死んで行く人、
などと人間として扱われない人々が描かれます。

社会運動に関する知識の乏しい私だけど、
こういう弱者たちが力を合わせ、
そんな社会の仕組みを作っている人たちに訴えていく、立ち向かっていく、
というのが理想というか、あるべき姿だと漠然ながら思います。

ところが、この時代短編集が描く世界では、そうはなっていない。

なすすべもなく社会にすりつぶされるように消えていく人、
自暴自棄になって破滅していく人、
諦観して従順にただ生きていく人、そんなのばかりです。

何よりも困るのは、
自分と同じような弱者、もしくは自分よりもっと弱い人たちを、
食い物にしてずる賢く生きていく人があることなのでしょう。
弱者の敵は、支配者側の強者だけでなく、
他の弱者たちでもありうるという世界ですね。

今の世の中にも、
食い詰めた挙句に闇求人サイトで振り込め詐欺に加担する人がいます。
弱者が(多くの被害者はご年配ですから)弱者を食い物にする構図です。

こういう連鎖だけは食い止めねばなりません。
でもどんな方法があるんでしょ?



などと、いろいろ書いていると暗くなってしまうのですが、
松本清張がスゴイのはそこにエンターテインメントの要素も入れ、
楽しめる読み物として私たちに提示してくれている所です。

微罪で島送りされ、数年で江戸に戻ってこれるはずが、
役人のいい加減な作業によって島に居続けさせられ絶望する男の話は、
社会保険庁宙に浮いた年金記録の件とそっくり!
笑えない方々も多くいるので申し訳ないけど、私はにやついてしまいました。

留飲が下がるエピソードもありますよ。
でも良く考えてみれば卑怯な弱者が成敗されただけで、
そんな社会を作り上げている強者は安穏としてるんですけどね。

だからと言って、
では支配者側の人たちは幸せなのだろうかとも考えさせられもします。



最後に、江戸時代と現代の一番大きな違いは、
ジャーナリズムが存在するかどうかなのでしょう。
不景気でマスコミ業界は大変なようだけど、
こんな時こそ報道よ、ガンバレ!!!