米原万里「必笑小咄のテクニック」

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米原万里さんの本は、外れが少ないので嬉しいです。
これは彼女お得意の小咄もの。外れであるはずがない。



☆でもね、正直、著者の意図に反して、
「笑いの構造」の分析なんて無駄だと、私は思っておりまする。

実際に、この本も分析うんぬんが面白いとは全く思わなかった。
「理論化した笑い」や「テクニックに頼った笑い」が、
面白いことは滅多にないのでございます。

でも米原さんの文章力と、豊富なエピソードと、
サンプルとして使われる小咄の笑いの力で、
十分読み応えのある一冊になっております。

私の場合、ブックオフで105円で買ったのだから、
十分すぎる程の価値がございました。



☆あとがきにあるように、彼女の晩年の作であり、
精神的にも、肉体的にも、悪い状況で書かれたものであるらしい。

話題が小泉やブッシュ批判(というより罵倒に近い)に走りがちなのが、
読んでいて鼻につく感じもします。
スターリンに関する小咄と並んでいたりすると違和感があります。
冷静さと熱さがゴチャゴチャで、
小泉ブッシュ批判なら、別に一冊書くべきだと思ってしまう。

でもこれも、彼女の体調を考えると分かるような気がします。
弱者を思いやらぬ現在の為政者への怒りを掻き立てることで、
執筆意欲を何とか維持していたんだろうな。



☆中で、私が一番気に入った小咄は、これ。


  ビール園で、ウェイターに対して。
  「ちょっと、ジョッキの中で蠅が溺れているわよ! 何とかしてよ」
  「浮き輪でも投げ入れましょうか」



☆難点としては、それぞれの小咄の作者が分からぬこと。
せめて米原さんの自作であるのかどうかは明記していて欲しいよ。