ヤモリ


先週、部屋にヤモリが入っているのを見つけた。

東南アジアにしばし住んでいた私にとって、
部屋の中にヤモリがいるのは懐かしい光景です。
あっちのは「ケケケケケ」と鳴いてたよなあ。

でもまあ外に出してやるべ、と壁に手を伸ばしたところ、
ポトっと積んである荷物の脇に落ちて、
奥の方へと入り込んで見えなくなってしまった。

ふむ。
今から寝るところなのにヤモリの大捜査を始めると、
ホコリと汗でヒドイ状況になってしまう。
明日になったら、また出てくるだろう。
そう思って、その日は安らかな眠りにつきました。

ところが、あれから約一週間、姿を見ていないのです。

そもそも彼がどうやって部屋の中に侵入したのか不明でした。
網戸はピッタリと閉めているのに。
私の知らない経路があって、そこからもう出て行ったのでしょうか?
それとも、部屋の中にまだ生きているのだろうか?
それともそれとも、どこか部屋の中で死んでいるのだろうか?


以下は、思い出話でございます。


小学生の頃、夏休みが終わり、初めて登校して教室に入ると、
女子を中心に数人が「くさいくさい」と言い合っていた。
確かめると、窓のカーテンの下で、ヤモリが死んで干からびていた。

小さな生き物の死骸があんなに臭いとは。
そう言う点において、私の原体験の一つです。


で、再び東南アジアでの話。
ある頃からノラ猫が我が部屋に頻繁に出入りするようになりました。
お持ち帰り弁当をよく食べていたので、
魚の頭とか、トリの骨とか、
そんなのをあげていたら、なついてしまったのです。

で、ある日、部屋に入って来たネコがいきなり机に跳び上がり、
そこからまた大ジャンプをして壁の高い所にいたヤモリを捕まえました。

「すげえ」

ネコのハンターとしての有能さですね。
大いに感心して、彼女が次にどうするのか観察しました。
すぐに食べるのだろうと予想したのですが、さにあらず。
彼女はヤモリを遊び道具としてしまいました。

ヤモリを部屋の真ん中に置いて、
自分は部屋の隅に退き、伏せのポーズを取る。
ひん死のヤモリがチョロチョロと逃げだすと、
タイミングを計らって跳びかかり、押さえ付けてくわえる。
そしてまた部屋の真ん中に置く。
延々と、それを繰り返していました。残酷にも。

そして結局、彼女はヤモリを食べなかったようなのです。最後まで。

それで考えました、なぜ食べなかったのだろう、と。
私は彼女に豊富なエサを与えていた訳ではない。
常に空腹で、自分でドブネズミや虫を捕まえては食べていました。
その時、たまたま満腹だった可能性はあるけれど、
どうも「くさくて、不味い」からだったように思えてならないのです。


さて、先週のヤモリ君はどうなったのだろう?
部屋の中に虫はほとんどいない。
まだ中にいるとしたら、どれくらいで餓死するのだろう?
気になるなあ。

幸い、まだ何の臭いもしてない。

東南アジアのヤモリのように、
「ケケ」と鳴いて健在をアピールして欲しいのだけど。