水木しげる「水木しげるのニッポン幸福哀歌」

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先日、ブックオフでこの本を見つけた際、
そう言えば水木しげるの漫画って読んだ事ないよな、
と思い出しました。

嫌ったり、避けたりしていた訳ではない。
単なる巡りあわせです。

子供のころTVアニメの放送はあったが、
夢中になって見た記憶はないし、
ストーリーも設定も憶えていないから、
好みの世界でなかったのは確かですけど。

でも、せっかく朝ドラが評判になるなど再ブームらしいから、
ゲゲゲの鬼太郎」でも読んでみようと思い立ちました。

が、しかし、、、見当たりません。。
探した場所が間違っていた可能性はありますが、
彼の漫画で見つかったのは結局この本だけでした。

私にとって水木ワールドへの第一歩なのだから、
もうちょっと有名作品を選びたかったのですけどねえ。
まあ描かれている妖怪世界はさすがに独特だったから、買いました。
他店で探す程の根気もありませんでしたし。


本書は、
昭和42年から44年にかけての連作短編集の文庫化本です。
サラリーマンが主人公の作品が多いように、
大人向けの漫画です。

時期的に、作者が一番忙しかった頃なのでしょう。
それを思わせる、ちと自虐的な短編もあります。
ただ、いわゆるやっつけ仕事と思える作品ではあっても、
絵は驚くほど丁寧に細密に描かれているし、
ストーリーは安易に思えても、一貫したものが底に流れています。
「さすが」でございます。


さて、では面白いのかと問われると、難しい。

作品が描かれた、いわゆる高度経済成長期において、
日本全体が成長と繁栄を謳歌している中で、
「幸福って何?」と皮肉を交えた妖怪譚は面白かったかも知れぬ。

しかし、沈滞した社会ムードの今日、
幸福に関する国民的考察は当時よりも深まってます。
金、出世、権力などへの欲望をシニカルに描き無常感を出されても、
ピンと来る部分は少ないような気がしました。
時代を超えるだけの力はあまり無い、というのが我が意見です。

だから頭を切り替えて、
約40年前の世相の証人として読むべきものなのでしょうね。
「当時の日本って、浮かれていたんだなあ」と。


もう一つ気がついた事。

当時は成長や繁栄へ皆が前ばかりを向いていたとしても、
ちょっと振り返れば、それぞれの子供時代等には、
妖怪などのおどろおどろしい物を濃厚に感じる体験があった、
という点です。

都会で生まれ、都会で育った人がどんどん増えている今日、
妖怪の世界も実感としてではなく、
お勉強として頭に詰め込んでいる面が強いと思うんですね。
私自身もそうです。

そういう大人の心を奪うような妖怪譚ってのは難しいんだろうなあ。
今の水木しげるなら可能なのだろうけど。


ええっと、悪評ばかり書いてしまいましたが、
画だけでも買う価値はありました。
そして、一つ目の話はかなり面白かったですよ。
他人にお薦めは出来ないけど、
個人的には楽しめる点もいっぱいあって満足してます。