早坂隆「昭和十七年の夏 幻の甲子園:戦時下の球児たち」

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非常に面白く、興奮もしたし、考えさせられもした一冊。
個人的には、ここ数年で一番の読みごたえでした。
野球が好きな人、特に高校野球ファンには必読書かも。
大袈裟じゃないですよ、読んでみてください。


amazonのサイトからコピペします。

  内容(「BOOK」データベースより)

  昭和十七年六月五日に始まったミッドウェー海戦大敗直後の六月二十四日、
  文部省が前年中止になっていた甲子園大会の開催を知らせる通達を出した。
  (中略)
  戦意高揚のため特異な戦時ルールが適用され、
  「選手」としてではなく「選士」として出場し選手交代も認められず、
  大会後は「兵士」として戦場へ向かった多くの球児たちの
  数奇な運命を辿る傑作ノンフィクション。


戦争など重い題材について、普段は避けがちな私ですが、
震災以降、ちょっと読書の傾向が変化しています。
ま、イデオロギー臭のする重い本は相変わらずクズとしか思えないが。

逆に軽い内容の本に違和感を覚えるようになってます。
人体実験として、例えばバブル期の軽薄ナンパ雑誌を読んだら、
あたしゃどうなってしまうんだろう?



本書では大会全15試合が再現されています。
これがスゴイ。
熱さが伝わって来るんですよ、少なくとも私には。
名勝負と言える内容も多いし、
微妙なあやによって思わぬ結果となる試合もある。
それを著者は丁寧に文章に起こしていく。

試合のカギになった選手のその後にも触れられています。
当然、悲しい将来が多いです。

大会は、日程が進むごとに盛り上がって行きます。
そして最後の大一番となる決勝戦は、悲壮感溢れる大乱戦となり、
延長11回の裏に最後のドラマが待っています。

「目を瞑っていけ」との監督の指示。
「私も試合が終わったことに気が付かなかったんです」
「どうしようもなかったと思います。まさに限界ということだったでしょう」
「最後までこう言っていましたよ。『あれはストライクだった』と」

高校野球って、今でもいろいろ無理があるけれど、
さすがにこの戦時中の大会は理不尽としか思えないルールや、
日程が押し付けられています。
なんと決勝戦は、準決勝一試合とのダブルヘッダー
それらの無茶が大会屈指の好投手の肩にのしかかって行くのです。

しかしそんな不条理にもかかわらず、
結末に、その散り際に、爽やかさすら感じさせてくれるのは、
高校野球の持っている力なのでしょう。
何故日本人はこれほど野球が、高校野球が好きなのか、
答えはこの結末から得られる感覚に潜んでいるような気がします。

この特異な大会を追体験させてくれた著者に、心より感謝します。


ところで、本書の主役の一人である平安中の冨樫淳は、
戦後、タイガースに入り活躍しました。
怪我が多かったために昭和25年に引退したそうです。

ちょうど今、交流戦のホームゲームで、
タイガースは復刻版の黒いユニフォームを着ています。
冨樫さんも着ていた物のはずです。
時代は繋がっているんですね。