酒を飲むこれがほんとの肝試し

◎雑句「酒を飲む これがほんとの 肝試し」



お化け屋敷で肝試しをするのはキライなので、
アルコールで肝臓を試すのが、我が納涼。うはは


なんとなく、思い出ばなしを。

お化け屋敷に入った事はないが、
記憶の底をほじくり返すと、一度だけ肝試しの体験がある。

小学生の頃、一時期住んでいた団地の子供会で、
地蔵盆のイベントか何かでお化け大会があり、
何故だかお化け役の方に選ばれてしまったのだ。
つまり、我が肝試しの体験は、驚かす側のもの。

お化け顔だから選ばれたのなら子供心にも屈辱だが、さにあらず。
私は、釣り竿(だったっけ?)とコンニャクをあてがわれた。
そして、滑り台の上に陣取り、下を通る人のほっぺたに、
コンニャクをぴちゃっと当てて驚かせる、という役割り。

場所は近所の公園。
客は、近所の大人やら、子供やら。

我々お化け連は、
朝から用意したメイクや、シーツの幽霊衣装で驚かそうとするが、
ルートから聞こえてくる本気の悲鳴は一つも無い。
ワイワイ、ガヤガヤと笑い声や歓声ばかり。

今思えば、そりゃそうである。
顔見知りの子らが物陰からどんな格好で出てきても、怖い訳が無い。
場所だって、皆が知り尽くしている。
何処あたりが怪しいか、分かっている客ばかり。
親に連れられた小学生以下の子どももいるけど、
こちらも和やかに歩いている。

滑り台の上の少年も、苦労した。
ぶら下げたコンニャクをちょうど人の頬に当てるのは至難の業だった。
そもそも練習はしていない。
また、客も、滑り台付近では何かがあると予想している。
完全な闇ではないから、
うっすら見える四角い物体をひょいと避けて通りやがる。

それに、地面に落とし砂だらけになったのを、
水道で洗ったりしている間にも、どんどんと客が通り過ぎていく。

結局、半ば以上の時間が過ぎた頃、方針を変えました。
千切って投げて当てよう、と。
別の子に滑り台の上からコンニャクの半分をぶら下げてもらう。
大人は当然そっちに意識が行く。
一方の私は、滑り台の下の陰に隠れ、
手首のスナップを効かせて顔にコンニャクの切れ端を投げる。

いい考えだと思ったのだが・・・これまた当らない。
動いている人間の顔がこれほど狙いづらいなんて知らなかった。

時間が経つにつれ、お客さんも少なくなってきた。
どうやらこの肝試しは、誰も驚かすことができずに終わるらしい。
私だって最初からやる気満々だった訳ではないが、
ここまで無残に終わってしまうと、徒労感が強い。
随分、蚊にも食われた。くやしい。

でも私の手には、まだコンニャクの固まりが残っている。
どれだけ人が来るか分からないから、小さく小さく千切っていたのだ。
終わりが近付いたのだから、大きめのを投げることにした。

当然ながら、投げる物に重みがあると、コントロールが良くなる。

そうしてそこに、妙に顔の大きいオッサンがやって来た。
的が大きい。

「わっ!」

やった!
終盤にきて初めての達成感。
ついに大人を驚かせる事が出来た。
思わずくすくす笑っていると、

「い、今のは一体なんや?」
「コンニャク」
「・・・食べるものを粗末にしたら、アカンやないか」

いま振り返ると、妙に可笑しい捨て台詞なのです。
忘れられません。


ところで、もし私が下手な童話作家なら、
この顔の大きいオッサンは、実はお地蔵さんでした、とするかも。
翌日見に行くと、お地蔵さんの頬から生臭い匂いがしました、とさ。

肝試しで使うコンニャクは、さすがにアク抜きしてないよねえ。