ピュピル


 長い文章を書いてみました。あしからず


 先日、海外で活躍して引退された、とあるプロスポーツ選手が、
英会話についてラジオで話されていた。

日常会話と、競技の専門用語にはすぐに慣れたけど、
怪我などをした際の、医者との会話に苦労した、とか。
医学用語や、肉体の細かい部分の単語は、耳慣れぬものばかりですから。
そういう場合、辞書を持って行って、丁寧に説明を聞くのだ、と。


 私も海外で、一度だけ医者に行った事がある。

眼球を軽く傷つけてしまったのだ。
片目がぼんやりして、焦点が合いにくい。
小さい文字なんかは読めない。

症状は大したこと無かったが、原因不明なのが不安でした。
何より怖かったのが、目の寄生虫もあるという噂。
途上国でしたから。

てな訳で、目医者を探して、一人で行ったのであります。

「そうそう、眼科用語の英語なんて全く知らないから、
重いけど辞書を持って行かなくっちゃ」

・・・って思ったけど、辞書の細かい字が読まれへん!


 英語が上達する一番の条件は、「破れかぶれ」になること。
中学生レベルの文法を駆使し、
必死になって聞いて、必死になって伝えようとすること。

英語が苦手、と言う人は、それをやったことが無いだけです。
辞書なしで海外の病院に行くのも、語学上達の早道かな?
実際は単なる無謀でもあったが。


 ちょっとだけ、話題は横道にそれます。
診察を受ける直前のこと。

目医者など、いろんな医院が固まるブロックに入ると、
門衛に呼び止められました。
身分証明のパスポートを見せると、
何故だか医者ではなく、警備関係の詰め所に連れて行かれた。
インド系の怖そうな警官に紙コップを渡される。

「尿を出せ」
「へ??? 悪いのは目だよ」
「尿だ」

検査結果:薬物反応ナシ

うーん、麻薬使用の有無を確かめないと、
初診の外国人は入れてくれないのかあ。
薬物検査って、やられたことあります?
全く身に憶えが無いとは言え、あれはドキドキしますよ。


 話が中だるみしてしまって、申し訳ない。


 その後、かなり長く待たされて、
夕方、外は熱帯特有のスコールになった頃、
やっと診察室に入れてもらいました。

そこには、イスラム若い女のコが一人。
くりくりっとした目の、どう見ても20代の可愛さ。
細かい字は良く見えないけれど、女の人は良く見えたのだ。
ナースかと思いきや、女医さんであった。

門衛のような恐いオッサンだったらと不安だったので一安心。
ゆっくりとした英語で説明してくれと頼むと、
「OK」と言って、診察を始めた。

「検査のために、薬を使う。
これを使うと、ピュピルが・・・・けど、いいか?」
「外はもう暗いけれど、光に気を付けて」

さ~あ、大切な説明なのだが、分からなかった!
だって「ピュピル」は、「生徒」との意味のはず。
何故、眼の検査に生徒が関係あるのだ???
光に気をつけるって何だ???

分からないけど、彼女を信頼するしかない。
殺される事はないのだ。
よしんば殺されるにしても、こんな可愛い女性なら、良し。

「お願いします」


 検査してもらって、問題ないと言われ、ホッとしました。
点眼薬を貰い、外に出て、帰途のバス停に向かいます。

ただ、無事に検査も済んで、結果も出て安心だったのだが、
どうも眼の見え方がヘンなのだ。
夕暮れで雨が降っているのに、妙に明るい。
生まれて初めての不思議な感覚であった。

そして突然、雲の合間から、熱帯の強烈な西日が! 
ピカっ!

「眩しいっ!」

思わずうめいて、道端にしゃがみ込んでしまったワタシ。
その瞬間、女医さんの言葉の意味が分かりました。

瞳孔が締まらないのだ。
しばらくの間、瞳孔が開きっぱなしになる薬を使ったらしい。
バスに乗るまで、本当に大変でした。
眼の不自由な方の御苦労を、ほんのちょっぴり味わって。


 こうして私は、"pupil"の第二の意味「瞳孔」を憶えたのです。
忘れんよ、これだけは、ハイ。

辞書によると、

pupil
[名]解剖ひとみ,瞳孔(どうこう).
ラテン語ppilla (ppa少女+-lla指小辞)少女. 相手のひとみに映る自分の姿が子供に見えることから. 漢字「瞳」も同じ理由でできた]

そうかあ!
瞳は、目に童だもんな。
瞳孔と生徒(子供)は関係があったんだ。
これは、今回知った事でありまする。

面白い!