盛口満「雨の日は森へ」



副題「照葉樹林の奇怪な生き物」


私は、盛口氏の数多い著作のファンである。
久しぶりで彼の本を手にしたが、
改めて満足の読書になりました。

彼の諸著作の中でも、好著に入る一冊だと思います。
5つの星を。☆☆☆☆☆


沖縄県ヤンバルの森を中心とした
フィールドワークの記録なのだが、
何せこの著者は「妖怪級」に文章が達者なので、
読み手であるワタシも背後霊となって
現場で冬虫夏草を掘っている気にさせてくる。

何度も繰り返される、
照葉樹林は「暗い」「怖い」「不快」な森、
というフレーズ。

しかし、ドングリがなる木や、コケや、
冬虫夏草などを探し観察すると、
照葉樹林の中に、湿気だまりや坪といった場所が
見えるようになって来る。

そこには沖縄ではまだ見つかってなかった生き物がいて、
命が複雑に絡み合って世界を構成している。

そんな発見が、著者と同じ目線で追体験できるのだ。
お見事としか言いようがない。


また、氷河期とレフュージアの話も面白い。
小さな坪ではあるが、
地球規模での数万年単位での変動の結果が、
そこに表現されているのである。

生き物たちが必死に生き残ろうともがいてきた過程が、
今現在、ワタシ達と時代を共有している自然なのである。
「感動」を覚えずにはいられない。


南方熊楠について、
短いながらも触れている個所がある。

それが非常に分かりやすいというか、
彼が何を感じていたのかを肌感覚で伝えてくれている。

私にとっては、熊楠のどんな伝記よりも、
この本によって彼を理解出来たような気がした。

それだけでも、星5つだ。
読んで良かった。