金森朝子「野生のオランウータンを追いかけて」






本シリーズも、ずいぶんと読ませていただきました。

海外のフィールド調査をしたいと考えている若者に、
どれか一冊だけ推薦するとしたら、
私はこの本を選びます。
このシリーズ内で、というより、全ての本の中で。

調査地を一から選んで作る困難。
現地の人たちとの距離の取り方。
特に初期に調査が順調に進まない事への焦り。
軌道に乗り始めても、
恐ろしく地味で、忍耐のいる調査。

労多くして、功少なし、になりがちな実情が、
穏やかながら的確な文章で表現されています。

しかし、そんな中で得られる心躍る感覚や、
未知なる発見があった際の充実、
胸を張って世界に問える貴重な成果についても、
もちろん喜びを持って書かれていて、
実に中身ある一冊になっています。

皮膚感覚としての熱帯雨林の様子や、
オランウータンの一挙手一投足や感情までもが、
伝わって来るようで。

最後の、
オランウータンとその生息する森の現状についても、
豊富な実体験に裏打ちされた説得力ある内容でした。

どの部分を切り取っても、読んで損はない。


私は、研究を始めた当初、
ダナムバレイのように立派な原生林は
現在ほとんど残っていないので、
この調査地の結果は、
自然豊かな楽園に生息する
オランウータンの報告になると思っていた。

しかし、採食の研究が進むにつれ、
楽園のイメージとはまったく異なる現状が見えてきた。

オランウータンたちは、
食べ物の乏しい環境下で、
さまざまな工夫をこらしながら生活していた。


私も、熱帯雨林=楽園、という先入観を、
これまでずっと持って来ました。
正確には、本シリーズを読み始めるまで、ですけどね。

それを覆してくれて、
「豊かな自然とはなにか?」という
根源的な問題にまで示唆を与えてくれる調査結果に、
いろいろと考えさせられております。


ホント、読んでヨカッタ。