宇江敏勝「熊野川:伐り・筏師・船師・材木商」






前回、自伝的作品を読んだのに続き、
今度は著者が熊野川に関わった人達から
その人生について聞き書きしたり、
纏めたりしたものを読ませていただきました。

これもだいたい昭和初期から30年代くらいまで、
ダムや自動車道が整備される以前の、
川が物流や人の移動の中心であった頃の情景です。

今は無き風景や人間の息づかいが、
タイムカプセルのように本書に封入されていて、
貴重な貴重な一冊。

個人的には、特に筏師の話が面白かった。

日常的な川の様子が詳細に語られていますが、
川は穏やかな時ばかりでなく、
大水の際の筏師の動きの話題には、
地元言葉で語られるだけあって切迫感が伝わってきます。

熊野川というと、
どうしても2011年の大水害を思い出してしまうので、
なおさら胸が痛くなるような気分で読みました。


あと、材木商の親子の人生も、なかなかでした。
いろんな人生がある、という感慨と共に。


やはりこうやって、過去の日本の姿を、
読書によって体験するのは良いものです。

最新の自然科学の読書も楽しいですが、
人間くさい要素も時に注入しておかないと、
自分の中のバランスが悪くなるような気もして。