鉄子の旅(読書覚書)






十年ほど前に結構評判になったマンガ。
中古の全冊買いで安かった。
実質的に、我が本年の初読書がこれです。

単なる鉄道旅モノと思って読み始めたのですが、
いやいや、なかなかの内容。
何より、久々に腹を抱えて笑う場面が幾つかあった。
手塚治虫になるのか」は意表を突かれてむせたし、
四コマで「岡山に行きつけの○○がある」には爆笑。


最初は、鉄道に全く興味の無い漫画家キクチさんを、
ヲタの横見氏が連れ回すという構造で、
キクチさんの戸惑い、愚痴、怒りが楽しみポイント。

宮脇俊三氏にも、
若手編集者を退屈な鉄道旅でイジメるという連載がありました。
乗り鉄さんって、Sっ気があるのでしょうか。

それが中期以降になると、
表現者としてキクチさんが横見氏に突っ掛かって行く面が増え、
人間観察の面白さが前に出てきます。
鉄道に乗る事に賭けた一人の人生が見えてきます。


横見氏は、普通の鉄道マニアとも恐らく異なって、
今の世に溢れる情報に惑わされることなく、
自分の足でお気に入りの駅・路線を見つけてきた、
という面に呆れつつ感心するキクチさん。

その彼女も、終盤の大井川鉄道では、
自分だけの景色を見つけます。
よい意味で対立を続ける二人ですが、
結局、同じ旅の本質を掴むという点に、
読者として心動かされました。
途中の梅林や星空もつまりは同じ事。


鉄道をテーマに、ここまで内容を深める事が出来るとは、脱帽。
いろんな偶然も良い方に作用してくれているし。

鉄道関連の本をそれほど多く読んでいる訳ではないが、
阿房列車」や宮脇俊三氏の諸作に匹敵するレベルではないかと、
個人的には思いました。
大袈裟ですやろか?

星5つです。☆☆☆☆☆