「クマが樹に登ると」






「フィールドの生物学-⑫」である本書。
抜群に面白かったです!
夢中になって読んでしまいました。

クマが、桜などの果実を食べる。
それを鳥などより遠くまで運んで、糞として種を出す。
糞には、糞虫がやって来て、掘った穴に種を落とし、
発芽して次世代の樹になって行く。

そんな流れを、丹念に、粘り強く、
観察・実験により明らかにしていく見事な研究であり、
一冊になっている。


私が普段ひょこひょこ歩いているのは、
クマ不在の六甲山系であり、
植生も砂防・植林という人為を強く受けているので、
本書からの知見を活かして森を見る事が出来ぬのが残念だ。

かつて、近畿北部の春先の針広混交林で、
ヤマザクラがぽわんと咲いている斜面を遠景で見て、
美しさに感動した遠い経験がある。
あそこなら、ツキノワグマもいたはずだ。

あのヤマザクラも、
種の時代にクマの体内を通過したものだったのか、
などと想像すると、
改めての感動が胸をよぎります。


単純な感動だけでなく、
いろんな事を派生して考えてもいます。

例えば、九州のツキノワグマは絶滅したとも言われている。
長距離種子散布者が不在となったことで、
植生への影響はどのように出てくるのだろう?
100年単位、1000年単位で現れてくるのだろうか?

本州でも、クマ密度の濃淡は地域によってあるはずだ。
気温や雪の深さといった要素を排除できるとして、
クマ密度だけで植生の違いが説明出来たりするのだろうか?

これは空想でしかないが、
もし六甲山系にクマが生息するようになったら、
植生にはどんな影響が出るのだろう?


良い本というのは、読後にいろんな想像が膨らみます。
こんな素敵なフィールド研究が若い方によってなされている点に、
大きな刺激と希望も頂きました。

文句なしで、星5つです。☆☆☆☆☆