コケの自然誌







2012年に出版されているから、
昨年末に手にした私は3年ほど、
この素晴らしい本を読まずに過ごしていた訳だ。
何と勿体ないことか!

年を越して読ませてもらいました。
読書締めと、読書初めが本書ってのは、
馬券の方の終わりと初めが悪かったので、
よい気分であります。


著者自身の人生・身辺エッセイと同時に、
コケの生態が描かれていくという内容。
「ネイチャーライティング」と呼ばれる分野だそうだが、
実に無理なくその両者が融合されていて、
深い感動を呼び起こす力で溢れていました。

自然関連本は結構数多く読んでいるつもりだが、
こんな書き方があったのか、
と目からウロコが落ちました。

「惹かれ合うコケと水」という章が、その典型です。
祖父の死と家族の繋がりが、
コケと水の関係と同時に語られていきます。
最後の林に雨が降る場面では、
彼女が感じたコケの息吹の香りが
読み手にまで漂ってくるようだ。

「ミズゴケ」の章の歴史や血の繋がりが、
積み重なって残って行く関係が、
彼女の赤いスニーカーの印象的な色と共に
脳裏に焼きつく感じも、本当に素晴らしい。

「人工のコケ庭園」の章では、
彼女の深い怒りが表現されている。
抑制的な文章なだけに、その怒りがよく伝わる。


ま、興味深い章をいちいち紹介する訳には行かない。
感銘した文章を、全て抜き書きする訳にも行かない。
だから、本記事もそろそろ切り上げる事にする。


本書の最後の一文。

「そんな贈り物へのお礼として、
唯一まともな反応と言えば、
私たちがお返しに光り輝くことだけだ」


こんな文章を、説得力を持たせて最後に配置できる。
それこそが、この本の価値だと思いました。