塩尾寺のウラジロガシ
宝塚市内の木について、
いろいろ書くつもりではあるのですが、
私が知っているのは南半分ばかり。
中山連山と東六甲の端っこは頻繁に歩くけど、
西谷という北地区のことはほぼ知らないので、
ご容赦くださいませ。
さて、そんな私が知る範囲で、
最も立派な森林はと問われると、
塩尾寺周辺のウラジロガシ林だと答えます。
胸高直径50cm以上、
樹高も20m超級の
立派なウラジロガシ林が寺の周囲に広がっています。
標高は約350m、谷と尾根の間の斜面地。
塩尾寺は、六甲縦走路の東端であり、
数多くの登山者たちが通り過ぎていきます。
私としては、立派なカシ林を見ていただきたいのだが、
六甲山頂方面から塩尾寺まで辿り着いた方々は、
もうお風呂やビールしか眼中にないかのようで、
ちょっと残念なのであります。
「トイレないか?」と慌てるばかりだったり。
宝塚駅から、この寺までは舗装道路で、
タクシーでも来られる区間だけど、
森だけ見に来てくれる人なんて皆無らしい。
ええもんなんやけどなあ。
何度もこのブログで書いてきたことですが、
六甲山は明治の頃には、
人間の利用によってほぼハゲ山だったと言われています。
100年ちょっと前から砂防緑化事業が始まり、
60年ほど前から燃料や緑肥利用がほぼ無くなった結果、
徐々に元の森へと姿を戻しつつあるのが現状。
でもこのウラジロガシ林は、
恐らく寺の周囲ということで、
人間の利用が制限されてきたのでしょう。
間違いなく100年を超す歴史ある森です。
原生林とは呼べないでしょうが、
原生状態に近いと言えます。
「人間が利用しなかったら、
六甲山の中標高域はこんな森林で覆われていたんだ」
そう考えながら見るべき森で、
いわゆる照葉樹林の典型の一つなのです。
ちなみに、「六甲山系電子植生図鑑」によると、
ここは「ウラジロガシ-サカキ群落」に分類され、
六甲山で三か所のみとなっています。
極めて貴重という程ではないけど、
見れば嬉しくなる存在。
ただ、極相林の欠点も、この森からは見えてきます。
何しろ森の中が暗くて、
下層植生はヤブツバキがある程度で、
あまり豊かではありません。
生物の多様性という意味では、
人間が適度に荒らした方が、
いろんな植物が生えるようになるし、
いろんな昆虫なども増える。
六甲山の全山が極相状態にまで戻ったら、
相当な数の動植物が地域的に絶滅するかも。
そんなジレンマも、この森は教えてくれます。
最後に、今後を考える上で、
どうしても気になるのがナラ枯れ。
このウラジロガシ林のすぐ下のコナラ林は、
相当な被害が出ています。
今のところ、影響は観察出来ませんが、
私に出来るのは見続けるだけです。