佐藤寛之「琉球列島のススメ」







アマゾンでレビューが一つも入らないから、
どんな本なのかと心配しつつ手にしました。

・・・良い本でしたよ!

このシリーズの他の本は研究者によって書かれていますが、
本書は学位は持っておられるけれど、
フリーの「生き物屋」といった感じの著者によるもの。

琉球列島の両生類や爬虫類などについて、
書きたいことが溢れんばかりにあるようで、
熱い筆運びにより厚い一冊になっています。

元々自然好きだった著者。
大学生になって、
沖縄というそれまで全く未知だった地域に住み、
分からないものだらけの沖縄の自然と出合います。

それを徐々に把握して自分のものとしていく。

沖縄の自然が分かって来るという感覚、
何となくしか私程度の人間には共有できぬ部分ですが、
先輩や地元の方々との繋がりの中での
その瑞々しい喜びがまず書かれていて、
なかなか好感度の高い出だしとなっています。

それから、沖縄の四季について。
生き物たちが食って食われて生き伸びてを繰り返す様子、
それが年によってちょっとずつ異なったり、
人為の影響が及んできたりしていて、
まさに地に足のついた著者の観察眼の本領発揮です。
ワクワクさせられました。


後半、教育者としての面と、
開発に関わられた身としての面には、
著者の柔軟な人間性がうかがえて、
読んで損はさせぬ内容になっています。

特に、夜間中学でご年配の生徒さんを教える部分は、
しみじみと秀逸。

そこから、著者の環境教育者としての
深みが増したように思えるし、
教える際の創意工夫や周到な準備に
楽しさと頼もしさが感じられるようになるのです。

沖縄の人が、沖縄の自然について知らないし、
興味もほとんど持っていないという現状を、
こんな人が何とかしようと思っている。
彼の努力が実を結んで欲しいなと、切に願います。


どれくらい売れているのか知らないが、
無視されているのだとしたら惜しい一冊でした。

生き物屋としての成長譚であると同時に、
貴重な沖縄の自然誌でもある本書が、
長く読み継がれますように。



これで取り敢えず、
現在出版されている本シリーズは読破です。
お付き合い、有難うございました。