裏山の奇人







昨年の夏に出版された本。

私はこれを名著と呼ぶ。

ただの昆虫本ではなく、
「自分のことを分かって欲しい」的な要素がたっぷりあり、
そこの面白さも加味されての素晴らしさ。

正直、タイトルは、読み手を不安にさせるものです。
自分を「奇人」と呼ぶのは、自己顕示欲でしょう。
中身の無い人間が自分を大きく見せようと語る文章ほど、
読んで苦痛なものはないですから。

でも、本書は違います。
いやこの著者は違います。
ちゃんと確立された価値ある中身があります。

確かに、一般社会的に見れば「奇人」。
ただ自然の掟からすると、至極真っ当である。
そこが、昆虫の謎に迫る際の突破力となっている。

自然との距離の取り方、アイディア、粘り強さ、
など実に立派な中身で、痛快そのもの!



内容の中心は、好蟻性生物の研究。

でもそれにとどまらず、哺乳類の話題も面白いし、
カラスの実験もまさに奇人そのもので驚かされたし、
スズメバチ、コウモリ、ヒミズ、カエル、ケカゲロウなどなど、
グンタイアリのように好奇心の対象に噛みついて行く感じ。

対象は雑多と言わざるを得ないが、
著者の向き合い方は常に不変。
それも幼い頃からずっと不変であったようだ。
自然を研究するとはどういう事かを、
全身で教えてくれるような、彼の半生である。

こんな人が、今の日本にいる!
こんな人が、今も裏山にいてくれる!
そう思うだけで、愉快な気分が私の中に込み上げて来ます。

文句なしに星5つ。☆☆☆☆☆



最後になるが、このシリーズはすごいですね。
「クマが樹に登ったら」も最高に面白かった。
編集担当者は素晴らしい仕事をしている。見事。